医療における新しいITテクノロジーへの姿勢は伝統的に慎重で、最先端のITテクノロジーを最初に採り入れるようなことはめったにありません。それでも、進歩したITテクノロジーは、医療分野でも受け入れ態勢を整えつつあるところが出てきています。
病院は、他の業界で言うところの「顧客サービス」を強化しようとし始めています。患者は医療サービスの顧客であり、より優れたサービスを求めてプロバイダーを選択します。サービスのプロバイダーである病院は、サービスを強化し、効率を高めて、患者の満足を得られるよう、ITテクノロジーの使用を検討するようになります。
昨今では、医療記録はデジタル形式になっているので、診断はもちろん、業務管理、診療や手術の管理、患者の健康チェックなど、様々なところに改善の可能性があります。選択権が患者にある競争の激しい市場で、それぞれの病院は継続的な改善を余儀なくされます。
「改善のためにより多くのデータを駆使することの必要性が医療分野で認知されるまでには長い時間がかかりました。最近になってようやく、AIと組み合わせることでデータがより価値があることが実感されつつあります。」と、医療分析ソリューションとサービスの会社である Geneia の最高技術責任者、Fred Rahmanian 氏は話します。
医療診断には、どのような変革が可能でしょうか?医療環境においてAIは有用でしょうか?
MITのコンピュータサイエンスと人工知能研究所(Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory)が、最近、AI と機械学習を医療分野に応用した研究の開発を発表しました。彼らは、既存の医学データを分析し、リンパ腫のタイプに基づいて癌診断を医師に示唆するソリューションを開発しました。データ量が増えるにつれて、診断がより正確になることが期待されています。
イノベーションは継続が重要
医療におけるAIの使用が関心を集めていることは間違いありません。
「AIが医療分野に何を提供できるかを探求すべきだとの要求がようやく一般的に強まってきました。それは、医療関連AIの新興企業への投資額からも明らかです。資金調達を受ける医療関連AIの新興企業の数は、2012年には20未満だったのが、2016年にはほぼ70にまで増加しました。オンコロジーでAIを使用する Flatiron Health 社は、2016年に重要な資金調達契約を獲得した多くの新興企業の1つです。」と Rahmanian 氏は述べています。
AIを可能にするのは巧妙なアルゴリズムだけではありません。ビッグデータ、クラウド、スウォーム・コンピューティングのような高性能コンピューティング(HPC)手法と計算能力を強化するクラスタの使用などもAIに貢献します。
「コンピュータ支援診断は、画像データをどう利用するかが大きなポイントになります。最近では、いろいろなモダリティを使った診断が可能になってきています。私はこれが膨大な量のデータが利用可能になったことと計算能力が増大したことの相乗効果だと信じています。アルゴリズムの改良もさることながら、利用可能な大量データと計算能力の増大が、これまでの進歩に大きく寄与したと感じています。今後数年間のうちに、より多くの診断ソリューションが出てくるでしょう。」と Rahmanian 氏は話します。
画像診断
Rahmanian 氏が指摘するように、MITのイノベーションは、複数の医療レポートに含まれるデータを利用するものです。しかし、写真、X線、MRIなど、画像ベースの診断には別の手法が必要です。
Rahmanian 氏は、「画像診断の問題にはディープネットワークが効果的だと思っています。Data Science Bowl 2017で行われた肺結節診断のコンテストで、トップチームの大半はディープネット・アプローチを採用していました。」と話します。
ディープラーニング・ネットワークは、人工知能テクノロジーの一種であり、機械学習のサブセットと見なされます。機械学習がチェスプログラムに使用される場合、行われる「学習」は、データ科学者が直接インプリメントする必要のある進化するアルゴリズムに基づいています。一方、グラフィック処理ユニット(GPU)を駆使して行なわれるディープラーニングは、より多くの処理能力と速度が必要です。ディープラーニングの環境では、コンピュータは高速で何度も何度も繰り返しプレイすることができ、最終的に勝てなくなるまで各ゲームから学ぶことができます。このディープラーニングのテクニックを大量の画像データに応用すると、これまで不可能と思われていたレベルの分析、表示、予測が可能になります。
今後の動向
自律運転が現実化しつつあるように、医療におけるAIとディープラーニングは今後も発展を続けるでしょうが、将来的に医療産業全般にわたってAIが採り入れられるかどうかはさまざまな要因に左右されます。その要因には、データプライバシー、データ解析時の個人識別情報(PII)の除去、データセキュリティ、法的な制約、データを迅速・的確に解読するために必要なコンピューティングリソースなどが含まれます。将来はアンドロイドの医師が診察するようになるでしょうか?その実現性は低いでしょう。しかし、近い将来AIが医療分野でより大きな役割を果たすようになるであろうことは確かです。
Michael O'Dwyer
An Irishman based in Hong Kong, Michael O’Dwyer is a business & technology journalist, independent consultant and writer who specializes in writing for enterprise, small business and IT audiences. With 20+ years of experience in everything from IT and electronic component-level failure analysis to process improvement and supply chains (and an in-depth knowledge of Klingon,) Michael is a sought-after writer whose quality sources, deep research and quirky sense of humor ensures he’s welcome in high-profile publications such as The Street and Fortune 100 IT portals.