皆さんは、スーパーで買い物をする際に商品のラベルを読むでしょう。私たちは皆、自分が買おうとしているのはどんなものなのか、つまり原料や産地などを知りたいと思います。
金融商品やサービスを購入する際も同じで、その中身を知りたいと思うでしょう。
特にESGをうたったもの、つまり環境、社会、ガバナンスにおいて持続可能であることを売りにしている場合は、そうしたくなるでしょう。
食料品店で持続可能な食品を選びたいように、投資においても持続可能なものを選びたくなるのです。
しかし、ここには問題があります。ESGの定義は、オーガニックやサステイナブルな食品の場合と同様に、一定ではないのです。ラベルには何を表示すべきなのでしょうか。またそこに書かれていることが正しいことを、どうやって証明できるのでしょうか。
自社の製品やサービスのESG性を証明するために、外部の認証機関を利用することもあるでしょう。実際、そういった認証機関には、それぞれ独自のESG基準を使って企業や商品を格付けしているところが多々あります。
消費者は、金銭的投資および社会貢献という2つの観点において、常に完全な透明性と情報開示を求めています。特にお客様に代わって投資判断をする際、透明性が高く、分かりやすい方が信頼されるでしょう。
このような外部認証機関による信頼性が必要なのは、何もESG金融商品に限ったことではありません。この問題はあらゆる所に存在しますが、消費者自身および消費者の期待値が複雑かつ主観的なため、対応が極めて困難です。
例えば、レストランで「産地直送」といっている場合、これは実際には何を意味しているのでしょうか。
顧客のために複雑な投資ポートフォリオを管理することは、そもそも簡単ではありません。さらにこれをESGの観点から行わなければならない場合、気が遠くなるほど複雑になります。
多くのESG評価機関が、それぞれ多種多様なESG測定手法に基づくKPIを使っています。
ここにおいて唯一無二のKPIがある訳ではなく、KPIの選択、その定義、測定方法、提供手段はすべて主観的なものです。
この主観的なKPIの集合体は定期的に更新され、ESG投資会社に販売されていますが、これを購入した投資会社はその使い方を自分たちで考えなければなりません。
ポートフォリオを財務的な観点(リスク、税効果など)から評価するための優れたツールや方法論は存在していますが、ESGの観点から評価するツールは存在しません。
また、両方ができるツールが存在しないことは間違いありません。
ESG関連の財務アナリストは、継続的に提供される1万以上の複雑なデータ要素を解釈・評価し、組織を代表して重要な決定を下す責任を負っています。
こういった仕事に使える一般的なツールがないのに、どうやって仕事ができるのでしょうか。
ESG投資を扱う金融会社は、極めて賢い「クオンツ」と呼ばれる人々を使って、何をすべきかを理解しようとしています。
優れたクオンツは、与えられたデータを分析するために、自分でさまざまなツールを組み合わせます。この際、データベース、スプレッドシート、スクリプト記述用ツールなど、さまざまなソフトウェアコンポーネントを組み合わせるのです。
賢い人であれば、簡単に入手できるオープンソースのソフトウェアを組み合わせて、驚くほど強力なツールを素早く構築するでしょう。
一昔前に比べるとまるで魔法のようですが、確かに場合によっては実際に魔法を起こすこともできます。
しかし残念ながら、この「リサーチ担当者自身が強力なツールを作成する」というやり方は、他のリサーチ関連活動と同様に、ESG金融サービスにおいても逆効果になる可能性があります。
これらのツールは、将来に関する意思決定に使用されます。データの解釈方法や全体としての意思決定手法を標準化・管理するセントラルプラットフォームおよび方法論がなければ、機能全体の有効性は著しく損なわれます。
効果達成を目的としてクオンツのグループを整理しないかぎり、壁にぶつかることになります。この問題の解決には、ファクトおよびそれについて知られていることを格納する共有プラットフォームが必要です。
例えば、「このエージェンシーのESG KPIは何を意味しているのでしょうか。また、それについて私は何をすべきなのでしょうか」「過去に当社の社員がこれをどう評価したのでしょうか。またそれはなぜなのでしょうか」。こういった問いは重要であり、すぐに答えられるようにしておく必要があります。
これが問題となるのは、金融機関のESG商品開発担当クオンツチームに限ったことではありません。この問題は、大量の複雑な問題を解釈し、評価し、行動に結び付けなければならない場合に発生します。
それではチームが壁にぶつかっているかどうかは、何をもって判断できるのでしょうか。
賢いクオンツは、ツールの作り方や使い方を知っています。もしツールが不十分であれば、共有ツールを生産的に使おうとする代わりに、非常に貴重な時間を使って、自分でツールを構築、維持、改善しようとするでしょう。
さらに悪いことに、これらの自作ツールは重要な意思決定を行うために使用されますが、ブラックボックス化されています。つまりどのようにファクトを評価・解釈したのかはわかりません。
その結果、定量化や管理が非常に難しい、新しい形のリスクが生まれます。というのも、自分たち自身が何がわからないのかがわからないのですから。
ファクトおよびその意味の解釈を共有したうえでのイノベーションは、良いことです。でもそうでないなら、イノベーションは単に組織的ナレッジを断片化し、新しい形のリスクを生み出すことにしかなりません。
ここでは、共有されたナレッジを収集、合成、点検、管理するプロセスと、それを支えるプラットフォームが必要です。
それがないと、カオスが指数関数的に増大することになりかねません。
投資判断は事後に検証されることが多く、過去になぜそう判断したのかを後から尋ねられます。つまりその当時どんなファクトがあったのか、そのファクトをチームがどのように評価したのか、なぜそのような意思決定をしたのかを説明する必要があります。
このやり方は、継続的な改善の観点からも非常に有効です。ある時点のファクトおよびそれについて知っていたことを遡って把握できれば、今後の改善に役立つ、明確で貴重なチャンスが与えられる可能性が高いです。
コンプライアンス、クライアント、プロセス改善のいずれの観点からも、説明可能かつ証明可能な答えを用意しておくことは非常に有効です。
クオンツの人材獲得競争は激しく、確実に人材の入れ替えがあります。新しい参加者が十分生産的になるまでに数日や数週間ではなく数か月かかっている場合、その原因はすぐに利用できるファクトやその解釈・意味がないからだと考えられます。
もし、非常に賢く、非常にお金がかかる新人が利用できる、共有されているファクトおよびその解釈や意味用のレポジトリがない場合、彼らは自分自身で何とかするしかありません。つまり、その分野に習熟するために、自分でいろいろ調べ、多くの人と話し、多くの失敗を繰り返していくことになります。
こういった賢い人々がそのうち何とかなるのは間違いないですが、それでは時間がかかりすぎます。また、すでに存在しているツールを再度作ってしまうという無駄も発生します。
あなたの組織では、新入社員教育を人間関係の構築や福利厚生といった観点から考えているかもしれません。しかしその場合、 新メンバーは仕事で必要な専門知識(関係するファクトやその意味)をどう学習したら良いのでしょうか。
こういった賢い人々が、複雑なデータを評価しその意味を判断する際の困難は、決して珍しいものではありません。このような問題は、情報機関や軍、ライフサイエンス、複雑な製造業、物流、金融サービスといったあらゆる業界において、将来に関する重要な意思決定をする際にいつも起こっています。
これに対して、人々はみな同じ方法で対応しています。つまり、新しいファクトを既存のファクトやナレッジと関連付けて、新しいファクトの重要性を評価するのです。
また既存のファクトの新しい解釈(つまり新しいナレッジ)を創造し、これを他者と共有しようとします。そして、情報に基づく意思決定において、入手可能なファクトおよびそれについて知られていることすべてを利用したいと考えます。
データベースはファクト(つまりデータ)を格納します。「セマンティック」データベースは、ファクトおよびその「意味」を格納します。
セマンティックデータベースは、セマンティックAIを使ってファクトやその意味を知るものです。これはちょうど何も知らない人に、「ここにこういうものがあります、この意味はこういうことです。他のものとの関係はこうなっています」と教えるようなものです。
ESGの場合、「ファクト」とは「エージェンシーAによるB社のKPI C評価は、3か月前の評価から0.2ポイントアップの3.8点である」といったものです。それではこれが「ファクト」だとすれば、その「意味」は何なのでしょうか。
まずエージェンシー自体に関するナレッジがあるでしょう。具体的には、同様のエージェンシーのなかで、このエージェンシーはどのように位置付けられるのか、またそのバイアスなどについての知見があるはずです。この場合、彼らが使っているKPIの正確な定義や、それが他の類似のものとどう違うのかについて知りたいでしょう。またそのKPIが顧客全体に対して、あるいは一部の顧客にとってどれほど重要であるかを知りたいと思うでしょう。ここで言われている「3.8点」がどのようなものなのか(何点満点かや評価基準など)を確認する必要があります。
この例をいたずらに複雑にするつもりはありませんが、クオンツやリサーチャーが、物事の定義や、そのように定義されている理由、内在するバイアスなどをもっと知りたいと思うだろうことは容易に想像がつくでしょう。
この「ナレッジ」は抽象的です。簡単に言えば、上記の単純なファクトの解釈には、多くの知識が必要なのです。
技術的な観点からすると、セマンティックナレッジグラフ(SKG)は、ファクト、それについて知っていること、それらが意味することを表現する優れた方法です。
データ(エージェンシーから入力されるもの)に加えて、ファクトについて知っていること(SKGとして格納されている解釈)を格納することで、データ、解釈、意思決定を共有できるようになり、それに基づいて行動できるような信頼性の高い情報ソースとなります。
事実だけを格納するのではなく、ファクトおよびそれについて知っていることも一か所にまとめておくというのが、「セマンティック」データベースのコンセプトなのです。
セマンティックデータベースはデータのアジリティを生み出します(データのアジリティとは、いろいろな人がデータを解釈する方法を簡単かつ強力に変更できるということです)。データアジリティは、いろいろなことを加速させますが、特に組織の学習を加速させます。
ファクトおよびそれについて知っていることを簡単に把握し、改善し、共有できることは、当然のことながら、誰にとっても大きな利益があります。
クライアントは、ファクトの独自な解釈およびその意味により、情報に基づいた選択ができます。これはいつでも誰に対しても容易に説明可能かつ検証可能なものとなります。ESGに対する消費者の嗜好が変化しても、金融機関は顧客のESGポートフォリオを容易に再調整できるので、他社よりも素早く適応し、特化できます。
ESGに特化した金融サービス企業は、新規顧客の開拓や受け入れ、社員の生産性向上(および迅速な対応)、リスクと収益性の分析など、ビジネスのあらゆる側面において、再現性、改善性、ガバナンス性のあるプロセスをより迅速に構築できるようになります。
これらはすべて、ファクトおよびそれについて知っていることの上に構築されるのです。
また、コンプライアンス、監査、セキュリティなどに関する正当な懸念がある大企業は、その場しのぎのツールや方法論ではなく、エンタープライズプラットフォームを使用することで大きな安心感を得られることが多いことも忘れないでください。
「私の部下は、事実とその意味をどのように判断しているのだろうか?」「データに関する彼らのナレッジを把握し、共有し、標準化し、再利用することで、継続的に効果を高めることができているのか?」
「もしチーム内の賢い人々がツールを作ることではなく、それを使うことにもっと時間を使えたなら?」「ドキュメントの正式バージョンを1つに特定できていたなら?」「もっとアジャイルになれないのか?」
こういった疑問が一つでもあるのであれば、ぜひ私たちにご連絡いただきたいと思います。いろいろお手伝いできるかと思います。
2021年に、ポートフォリオマネジメント担当SVPとして、オラクルからMarkLogicに入社しました。オラクル以前は、VMwareで仮想ストレージに取り組んでいました。VMware以前は、EMCで約20年間、さまざまな分野、製品、アライアンスのリーダーを担当していました。
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